刑事事件

携帯電話の不正利用に関する犯罪(スマホの違法契約)

目次
  1. 1. 導入

    1.  しばしば、頼まれて本人名義で契約した携帯電話を何台か売却したところ、警察から連絡が来たがどうすればよいか、という相談を受けることがあります。そのため、今回は、ご自身の名義で契約した携帯電話機を、第三者に譲った場合に成立しうる犯罪について整理したいと思います。
  2. 2. ポイント

    1. 自身の名義で契約した携帯電話機を第三者に譲渡するなどした場合に成立する犯罪としては、
    2.  の2つの犯罪が成立する可能性が考えられます。
        
      なお、以下の「携帯電話」との表現には、音声通話ができる携帯電話(通話可能端末設備)と、SIMカード(契約者特定記録媒体)の両方を含む表現となっており、それだけでは通話ができない携帯電話機(SIMがなくWifiにもつながっていない携帯電話機。いわゆる「白ロム」端末)は含んでいませんのでご注意ください。
  3.   
  4. 3. 携帯電話不正利用防止法違反

    1.   携帯電話不正利用防止法違反では、携帯電話を契約する際に、携帯電話を手に入れようとする人に対し、
    2.  との義務を定めています。
       この規定に違反した場合、
    3. 携帯電話不正利用防止法20条違反として、2年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金またはこれを併科する旨が定められています。それほど重い量刑とは言えませんが、多くの場合、金銭目的で行われる犯行であることから、罰金額が高く設定されており、併科できるように定められているようです。
       
       ただ、この同法20条は、「業として有償で」と、構成要件で定めていますので、携帯電話を他人に有償で譲ることを反復継続したような場合に初めて、同法律20条違反が成立すると考えられます。
  5. 4. 詐欺罪

    1.   携帯電話を第三者に譲った場合に成立し得る犯罪としてもう一つは、詐欺罪が挙げられます。
       正確には、「携帯電話を第三者に譲渡する目的であったのに、これを秘密にしたまま契約して、(携帯電話ショップの店員を騙して)携帯電話を契約した」 ことが詐欺に当たる可能性がある行為になります。
  6. 5. 区別

    1.  携帯電話不正利用防止法違反との区別ですが、携帯電話を契約する際に、第三者に譲渡する意思(予定)があれば、詐欺罪になり、そうでない場合には、携帯電話不正利用防止法違反の適用を検討する、という順序が基本になると思います。
       ただ、詐欺罪が成立した場合に携帯電話不正利用防止法違反が成立しない、との関係にはないと考えられるため、両方の適用を目指して捜査がされる(詐欺には罰金がないため、罰金も科す目的の上で)可能性が高いのではないかと思います。
  7. 6. 実務的なアドバイス

    1.   捜査の対象とされた場合には、第三者への譲渡目的がどの時点で生じたか、携帯電話ショップの店員とのやりとりがどのようなものであったか、譲渡が有償で行われたのか、反復継続と言える程度に繰り返されていたか、第三者に譲渡された携帯電話がどのように利用されたか、どれくらいのグループによる犯行であるか、という点が重要になります。
       これらの事情を伺った上で、どのような対応をしていくべきであるのか、を検討することとなります。
  8. 7. 結論

    1.  契約名義を偽った携帯電話は、とばしの携帯、などと呼ばれ、特殊詐欺をはじめとする各種犯罪において頻繁に目にするものです。そのため、捜査機関としては、携帯電話の不正譲渡などについては、積極的に取り締まりをしているような状況があります。
       他方で、SNSなどでお金をもらえるからという理由で、携帯電話(プリペイド式などが多い。)の契約を安易にしてしまうようなケースもあとをたたないと聞いています。
       上述したような複雑さもありますので、警察などに呼ばれてしまったような場合には、できるだけ弁護士に相談することが望ましいのではないかと思います。
  9. 8. 参考

    1.  携帯電話不正利用防止法の定義が複雑怪奇ですので、同法と電波法について、私なりに整理をしたものを最後に掲載させていただきます。
  10. 9. 参考リンク

1. 導入


 しばしば、頼まれて本人名義で契約した携帯電話を何台か売却したところ、警察から連絡が来たがどうすればよいか、という相談を受けることがあります。そのため、今回は、ご自身の名義で契約した携帯電話機を、第三者に譲った場合に成立しうる犯罪について整理したいと思います。

2. ポイント


自身の名義で契約した携帯電話機を第三者に譲渡するなどした場合に成立する犯罪としては、

 の2つの犯罪が成立する可能性が考えられます。
  
なお、以下の「携帯電話」との表現には、音声通話ができる携帯電話(通話可能端末設備)と、SIMカード(契約者特定記録媒体)の両方を含む表現となっており、それだけでは通話ができない携帯電話機(SIMがなくWifiにもつながっていない携帯電話機。いわゆる「白ロム」端末)は含んでいませんのでご注意ください。

  

3. 携帯電話不正利用防止法違反


  携帯電話不正利用防止法違反では、携帯電話を契約する際に、携帯電話を手に入れようとする人に対し、

  • 他人に譲渡しようとする場合には、親族又は生計を同じくしているものに対し譲渡する場合を除き、あらかじめ携帯音声通信事業者の承諾を得なければならない。

 との義務を定めています。
 この規定に違反した場合、

携帯電話不正利用防止法20条違反として、2年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金またはこれを併科する旨が定められています。それほど重い量刑とは言えませんが、多くの場合、金銭目的で行われる犯行であることから、罰金額が高く設定されており、併科できるように定められているようです。
 
 ただ、この同法20条は、「業として有償で」と、構成要件で定めていますので、携帯電話を他人に有償で譲ることを反復継続したような場合に初めて、同法律20条違反が成立すると考えられます。

(なお、情を知って有償で譲り受けた人も同様です。)

4. 詐欺罪


  携帯電話を第三者に譲った場合に成立し得る犯罪としてもう一つは、詐欺罪が挙げられます。
 正確には、「携帯電話を第三者に譲渡する目的であったのに、これを秘密にしたまま契約して、(携帯電話ショップの店員を騙して)携帯電話を契約した」 ことが詐欺に当たる可能性がある行為になります。

5. 区別


 携帯電話不正利用防止法違反との区別ですが、携帯電話を契約する際に、第三者に譲渡する意思(予定)があれば、詐欺罪になり、そうでない場合には、携帯電話不正利用防止法違反の適用を検討する、という順序が基本になると思います。
 ただ、詐欺罪が成立した場合に携帯電話不正利用防止法違反が成立しない、との関係にはないと考えられるため、両方の適用を目指して捜査がされる(詐欺には罰金がないため、罰金も科す目的の上で)可能性が高いのではないかと思います。

6. 実務的なアドバイス


  捜査の対象とされた場合には、第三者への譲渡目的がどの時点で生じたか、携帯電話ショップの店員とのやりとりがどのようなものであったか、譲渡が有償で行われたのか、反復継続と言える程度に繰り返されていたか、第三者に譲渡された携帯電話がどのように利用されたか、どれくらいのグループによる犯行であるか、という点が重要になります。
 これらの事情を伺った上で、どのような対応をしていくべきであるのか、を検討することとなります。

7. 結論


 契約名義を偽った携帯電話は、とばしの携帯、などと呼ばれ、特殊詐欺をはじめとする各種犯罪において頻繁に目にするものです。そのため、捜査機関としては、携帯電話の不正譲渡などについては、積極的に取り締まりをしているような状況があります。
 他方で、SNSなどでお金をもらえるからという理由で、携帯電話(プリペイド式などが多い。)の契約を安易にしてしまうようなケースもあとをたたないと聞いています。
 上述したような複雑さもありますので、警察などに呼ばれてしまったような場合には、できるだけ弁護士に相談することが望ましいのではないかと思います。

8. 参考


 携帯電話不正利用防止法の定義が複雑怪奇ですので、同法と電波法について、私なりに整理をしたものを最後に掲載させていただきます。

(携帯電話不正利用防止法)

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC1000000031

用語定義注釈
備考
携帯音声通信携帯して使用するために開設する無線局と、当該無線局と通信を行うために陸上に開設する移動しない無線局との間で行われる無線通信のうち音声その他の音響を送り、伝え、又は受けるもの。・携帯して使用するために開設する無線局 →携帯電話機 ・陸上に開設する移動しない無線局 →基地局  
携帯音声通信役務電気通信事業法第二条第三号に規定する電気通信役務のうち携帯音声通信に係るものであって、その電気通信役務の提供を受ける者の管理体制の整備を促進する必要があると認められるものとして総務省令で定めるもの。
「電気通信役務とは、電気通信設備を使用して他人の通信を媒介し、若しくはその通信を送信し、又はその受信をすることをいう。」(法2Ⅲ)
携帯音声通信事業者電気通信事業法第二条第五号に規定する電気通信事業者のうち携帯音声通信役務を提供するもの。・携帯電話会社のキャリアのこと電気通信事業者とは、電気通信役務を他人の需要に応じて提供する事業を行う者をいう。」(法2ⅴ)
携帯音声通信端末設備電気通信事業法第二条第二号に規定する電気通信設備のうち携帯音声通信を行うための無線局の無線設備。・携帯電話機(の音声通話機能)電気通信設備とは、有線電気通信設備及び無線電気通信設備をいう。」(法2Ⅱ)
通話可能端末設備携帯音声通信端末設備であって携帯音声通信役務の提供に利用されている電気通信回線設備に接続され通話が可能なもの。・SIMカードを指した携帯電話機(通話できるものに限る)
契約者特定記録媒体携帯音声通信事業者との間で携帯音声通信役務の提供を内容とする契約を締結している者を特定するための情報を記録した電磁的記録媒体であって、携帯音声通信端末設備その他の設備に取り付けることにより、それと一体として通話可能端末設備を構成するもの。・SIMカード
通話可能端末設備等通話可能端末設備又は契約者特定記録媒体
法5条
携帯電話不正利用防止法2条

(電波法)

https://www.docomo.ne.jp/binary/pdf/corporate/technology/rd/technical_journal/bn/vol2_3/vol2_3_046jp.pdf

用語定義注釈
電波三百万メガヘルツ以下の周波数の電磁波
電波法2条1号
無線電信電波を利用して、符号を送り、又は受けるための通信設備
電波法2条2号
無線電話電波を利用して、音声その他の音響を送り、又は受けるための通信設備
電波法2条3号
無線設備無線電信、無線電話その他電波を送り、又は受けるための電気的設備
電波法2条4号
無線局無線設備及び無線設備の操作を行う者の総体。但し、受信のみを目的とするものを含まない物理的なイメージに加え、捜査者を合わせたものとして定義されている。
携帯電話機、携帯電話基地局も電波法上、
「無線局」に該当する。
電波法2条5号
無線従事者無線設備の操作又はその監督を行う者であつて、総務大臣の免許を受けたもの
電波法2条6号
電波法

9. 参考リンク

 埼玉新聞
 https://www.saitama-np.co.jp/articles/21510/postDetail
 電気通信事業者協会
 https://www.tca.or.jp/mobile/confirmation.html